まめランドの森

日々のfragment、もうそう、読んだ本やなんやかや

消えた消防車〜マルティン・ベックシリーズ

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昔住んでた家の

応接間(昭和な間取りですね)と

居間の間にガラス戸があって、

父親はガラス戸と居間の家具との隙間に

読み捨てたSFや推理小説の文庫本を

山と積んでいた。

 

小学校低学年の頃から硝子戸のすきまから

本を取って勝手に読んでたので、

今思えば随分背伸びしたことを

やっていたものだが、

今の読書傾向を決定づけた体験でもある。

 

スウェーデンの警察小説、

マルティン・ベックシリーズと出会ったのも、

その文庫の山の中だった。

 

「消えた消防車」は、シリーズ第5作目。

グンヴァルド・ラーソン(金髪の巨漢ながら

性格は「エロイカより愛をこめて」の

少佐っぽい)が張り込んでたアパートが

突然爆発。

グンヴァルドの奮闘にもかかわらず、

大勢の死者が出る惨事となった。

ところが、火元の男は、爆発する

2時間も前に不審な状況で死んでいたのだ。

そして現場に向かっていたはずの

消防車はどこに消えたのか。

 

昨今の北欧ミステリブームのおかげか

新訳が出てるので読んでみた。

 

・以前のは英語版からの訳(高見浩)、

 今回はスウェーデン版から(柳沢由実子)。

 個人的には高見訳が好きかな。

・人名とか少し変わっている部分あり。一瞬  

    誰?と思った。

 

初めに読んだ頃は、

「大人のおじさん」である主人公たちが

家庭のことで何をうじゃうじゃしてるのか

イマイチわかってなかったのだけど、

 

いま、かれらと近い年齢になって、

前には気に留めなかったところに

目がいく。

 

マルティン・ベックが

老人ホームにいるお母さんに

会いに行くところとか。

「母親は手を振った。小さくて、

体全体がしぼんで、灰色に見えた」

(p.15)

 

娘のイングリッド(17歳)に

「どうしてパパは

わたしと同じようにしないの?

ここから引っ越せば?」と言われるシーン。

(p.263)

 

しかしメランダー(旧訳のメランデルの方が

しっくりくる)夫妻のラブラブぶりは‥

コルベリさんのしあわせな結婚生活は

記憶に残ってたが、こっちは意外。(p.105)

 

一方で野心家の新人刑事スカッケは、

なかなか手柄が立てられず苦悩する。

(要領が悪いのでへんな事件?に

巻き込まれる。気の毒だが笑ってしまう。

そしてクラブ潜入の際の装束!p.187)

 

漫才巡査、クリスチャンソンとクヴァントも

健在だ。(p.223)

 

グンヴァルド・ラーソンが腰にきりっと

格子柄のエプロンを締めて作った

旨い昼食は(卵とベーコンと、バターで焼いた

ポテト。&今日の気分の紅茶をゆっくり飲む)

ちょっと食べて見たい。(p.136)

 

グンヴァルドは時間があると

ずっとサックス・ローマーの

小説を読み続けている。

(この人のon-offの切り替えは立派)

骨董屋探偵の事件簿かフー・マンチュー

どっちだろう。(p.148)

 

--と、ディテールが楽しめないと警察小説は

ダメなんで。

 

北欧ものって下手すると陰々滅々とした話に

なりがちなんですが、この「消えた消防車」は

わりと明るいトーンで読みやすいと思う。

 

マルティン・ベック自体が、

結構暗くなりがちな人なのだが、

傲岸不遜で協調性のかけらもなく、恐ろしく口が悪く、

いまならあらゆるハラスメントで引っかかる

グンヴァルド・ラーソン(いい人かも、

という一面もある)を始めとした

曲者揃いの刑事の皆さんによって

うまく中和されているというか・・・。 

 

個人的には後半に出てくるモンソンという

刑事が好きで、

40にして父親に初めて会ったときの

エピソードがすごくいい。(p.355)

おまけに彼はルンの家で、もうひとつの

消防車事件を見事に解決する。

 

以前読んだ時は爪楊枝を咥えた男、

という記憶しかなかったが、

いい味出してます。

 

しかしコピーライト1969年か‥。

みんながんがんタバコと大麻吸ってますね。

 

あと、日本で(警察に限らず)

これはありえないという

スウェーデンの休暇事情もスゴイ。

事件の途中だろうとなんだろうと、

ガーンとまとめてみんなが休んじゃう。

(そして捜査上の重大発見よりも

私生活のほうが優先される。

署に戻らずにデートに行っちゃったのには

さすがに驚いた)

 

でも、なんというか、

1960年代の北欧って、

すでに大人な懐の深い社会だったのだな。

それはそれで権利だし、ていう風な。

今の日本でこーゆーことをやったら

目を三角にした人たちが‥。

 

さて今、新訳が出てるのが、

ロセアンナ

煙に消えた男

バルコニーの男

笑う警官

・本作

 

今後主人公たちの身の上にも

いろんなことが起きるのだが。。。

全部出るのかな?

(ん?ここで打ち止めなの?あと5冊あるよ、

もうちょっと頑張って)