まめランドの森

日々のfragment、もうそう、読んだ本やなんやかや

亜さん、井伊さん、うえおかきくけこさん

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美男子なのできっと薔薇が似合う亜愛一郎は

泡坂妻夫のとても楽しいミステリ・シリーズに

出てくる名迷探偵です。いや、迷じゃないな。

とても不思議なものの見方ができる

頭の良い人です。しかも、

 

「その男は、色が白く、

ギリシャ彫刻のように整った顔だちを

していた。‥(中略)‥この男のように

軽やかで気品ある歩き方を、

塩田はまだ見たことがなかった」

(『亜愛一郎の狼狽』より「右腕山上空」)

 

と、あまりのことにギャグかと

思うほどですが、実際ギャグでして、

だいたいしばらくすると

 

「へっぴり腰で、一つのところをぐるぐる

廻って」みたり(同「DL2号機事件」)、

「白目を出してひっくり返った」りするので

(『亜愛一郎の逃亡』より「球形の楽園」)

 

女の人はスーッと離れていく、という

残念なことになるんである。

(でも白目をむくときはナゾが解けるとき)

 

短篇集めて三冊の本になってます。

亜愛一郎の狼狽

亜愛一郎の転倒

亜愛一郎の逃亡

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(角川文庫で持ってるけど、装丁バラバラ‥(^^;

     今は創元推理文庫で読める。右上はご先祖様)

 

すべて短篇。

散りばめられたトリックの数々は

名人芸で、楽しめること請け合い。。

小さくて、精緻で、箱根細工かなんかを

見ているような・・

というか、著者は本物の職人さん

(紋章上絵師)なのです。

写真右上の「智一郎」装丁の模様も本人作。

 

泡坂妻夫のもうひとつの顔が奇術師。

帽子から白いハトを取り出してニッコリ

という作品イメージでもあります。

 

このシリーズを面白くしている要素として

見逃せないのは‥。

脇役の皆さんが相当ユニークで、

しかもどこかで繋がっていて

“亜愛一郎ワールド”を形成しているところ

なのです。(ネーミングの遊びにも注目)

 

雑誌と言えば「週刊人間」で、

歌手は中里ララ、軽薄なタレントは

エスト吉良、商店街なら金堀商店街、

財閥と言えば千賀井、

学会にはクサフジジフサクあり。

(愛一郎が学術系カメラマンなので、

大学の先生が結構登場するが、どの人も

どっかヘンである。しかしこのヘンテコさは

結構リアル)

 

ほぼデフォルトで登場する

「三角形の顔をした洋装の小柄な老婦人」の

正体も気になるところ。(本名知って笑った)

 

個人的に好きなのは、『逃亡』の

医科歯科大学の巨大な附属病院を

ひたすらウロウロする「歯痛の思い出」

(亜と井伊と上岡菊彦が三人セットで動く

混乱!)、朝起きたら家が一軒消えていた‥

「砂蛾家の消失」、主人公の女の子の

熱意がすごい「珠洲子の装い」

(いずれも『転倒』所収)あたり。

 

あと、スピンオフで

亜智一郎の恐慌

というご先祖様の話があって、

愛一郎でお馴染みの皆さんの

ご先祖様たちが登場します。

江戸時代と現代と、対応させて読むと楽しい。